禿生海峡冬景色

山形在住【食いしん坊中年男子】の平穏な日常に突如襲いかかる妻や愛猫の嘔吐!そしてその内容物について…

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死ねばいい

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 『夕凪の街 桜の国』こうの史代/双葉社刊

こうの史代を初めて知ったのは、『さんさん録』という作品だった。妻に先立たれた初老男性とその息子家族のコミカルでありながらジンワリ心暖まるドラマで、フリーハンド色の強い柔らかな線とスクリーントーンをほとんど使わない野暮ったさのある絵柄に強く惹かれた。(特に乃菜という孫娘が、一重でいつも口をとがらせており、実に不細工不愛想で可愛いのだ)

それからしばらくして、こうの史代の代表作がこの『夕凪の街 桜の国』であり、なんと2004年に手塚治虫賞をとり、2007年には映画化までされていると知った。広島出身のこうのの描いたヒロシマの原爆にまつわる物語。この作品を描くに至った理由について、文庫本のあとがきから少し抜粋してみる。

ーーーー「ヒロシマを描いてみたら」というのは、編集さんの提案でした。三年前の夏の事でした。売れない作家らしく安請け合いしたものの、描ける自信はまるでなく、むしろ編集さんや夫が気安く「やってみれば」と口にすることが不思議でした。というのも、広島出身のわたしは、原爆について、描くどころか知ることすら「おこがましい」とずっと考えてきたのです。学校などで見聞きする体験談は「あの日のことは思い出したくない」で必ず結ばれ、「遭ってない者には判りっこない」ということだけは確かだったからです。しかし、原爆について調べるにつれ、「思い出したくない」「語りたくない」からといって、「知って欲しくない」わけでは決してない、ということがだんだんと判ってきました。また、遭っている者ならすべてを知っている、というわけでもないことも。そして、わたし達は伝えるぐらいの役割はせめて負うべきなのだ、と感じる事が出来るようになりました。ーーーー

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ボクは子供の時、正義感の強さから平和教育にいれあげていた母親によって強制的に原爆に関する映画や絵本・漫画・写真などを大量に見せられており、それが大きな恐怖として今も心に大きな穴として残っており、そういった情報に接する事を極度に怯えている面があるのだが、まあなんつーか、絶対接したくないと思いつつも、拒絶してるだけでは自分の中の穴も癒すことは出来ないであろうというのも…さすがに、この歳になれば判ってしまうものであって…そんな中で、この自分と同じ歳の優しく暖かい作風の漫画家ならやってくれるんじゃないかと!原爆に対する、残酷・無惨・悲哀というイメージ以外のドラマを与えてくれるんじゃないかと!そんな、淡い期待を持ちつつ手に取ったのでした。

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『夕凪の街 桜の国』は、3部の短編から成っている。第1部『夕凪の街』は、終戦10年目の広島が舞台。多くの原爆文献やドラマで語られ伝承民話のようになっている、被爆者の悲話である。回想シーンの中で、被爆者や遺体も出てくるがデフォルメされており、目を背けたくなるようなリアルな気持ち悪さはない。こうのらしい柔らかいドラマが、突如としてブツンと断絶し、戦争が作り出した不条理な悲劇が読み手の心に深く沁み入ってくる。第1部から30年後を描いた第2部、さらにその17年後の第3部は、現代劇『桜の国』として、関東地方で生活している所謂“被爆二世”の物語。短編の割に多くの登場人物の内面を描こうとしているのと、第1部『夕凪の街』のキャラクター達と凄く絶妙な距離感で繋がっているので、それを理解するのに少し時間がかかるが、単純に“原爆モノ”とはいえない人生のドラマを構築している。

この作品の素晴しいとこは、何より2つの異なった舞台を基にしたドラマを並べる事によって、『夕凪の街』を単なる悲話で終わらせずに済んでるし、『桜の国』の主人公達家族の明るさの奥に潜む影が、原爆という「“死ねばいい”と誰かに思われた」ものである事を強く意識させる事に成功しているという事に尽きるだろう。特に、上にも絶妙と書いたが2つのドラマのキャラクターの交錯し方が、近過ぎず遠過ぎずで丁寧に距離が測られており凄く感心した。ネタバレしてもいいのだろうが、実際本を手にした方が「あれ、このじいちゃん誰なんだ?」とページを遡ったりするのも、この漫画の面白いとこだと思うので、あえて伏せさせていただく。

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そんで、読んでみてボクのトラウマはどうなったか?というと…まあ、当たり前だけど漫画1冊で消え去るようなものではないわけです。だけど、この漫画本を捨ててしまおうかと見えない場所に放ってしまおうかとは思わなかった。自分の書棚に置いてもいいかなと、感想を文章に纏めてもいいかなと思った。あと何十年かかるかは分からないけど、こんな本がボクの本棚にズラッと並んだ時に自分の穴も埋まるのではないかと…そんな風に感じております。是非とも小学生のお子さんをお持ちの方には、原爆なり戦争の悲惨さを伝える漫画を子供に手渡す時は、『はだしのゲン』でなく『夕凪の街 桜の国』を!まずは、『夕凪の街 桜の国』を与えていただきたい!と、残酷・無惨・悲哀だけで思考ストップしちゃわない、原爆について戦争について長く深く思考を巡らす事のできるお子さんに育てていただきたいと思う所存でございます。

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ちなみに漫画を読んだ後に、映画版『夕凪の街 桜の国』も見ました。漫画よりストーリーが整理されており、わかりやすい作りになっていたが文部省推薦“原爆映画”の範疇からは突出していない印象。被爆者や遺体の表現もボクはダメでしたね…見てからしばらく、夜ひとりでトイレに行けなくなったぜ!でも、麻生久美子の薄幸感バリバリながらも朗らかなな皆実は、とても良かった。

  

 
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  1. 2009/09/25(金) 19:19:19|
  2. 感想文
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4

コメント

私も今年の夏、この本を読みました。
「この世界の片隅に」も買おうと思ってます。

mixiのコラムがきっかけですw
「ふかした芋の匂い、つないだ手の温かさ。泣いて笑って「幸せ」と呼べる日々が、あの頃にもあったということ。」
ここに惹かれました。

この本は、原爆話なのに、手に取れた これは自分にとって、進歩でしたw
手放さず、持って入れる本が出来たのはちょっとした変化です♪
こうのさんの絵は、ほんわかなので元々好きでしたし。

映画のほうはー・・・
見ないと思いますw
  1. 2009/09/25(金) 21:34:23 |
  2. URL |
  3. oshiruko #-
  4. [ 編集]

自分も小中学生の頃に学校で無理やり見せられた戦争ものの映画がトラウマです。
戦争がどれほど悲惨なものなのかを教えたいからといって、なにもそこまで怖くしなくても!
っていうのが感想でした。今でも旅行で長崎に行った時も、沖縄に行った時も
テンションがどん底まで落ちるのが分かっているのでそっち系には
どうしても近寄れませんでした。というわけでこのソフトなアプローチの作品には興味がわきました。
  1. 2009/09/26(土) 01:39:30 |
  2. URL |
  3. Nonsence #-
  4. [ 編集]

私は小学校に揃っていたはだしのゲンがトラウマです・・・もう「どんなかな~」って開いたページにいきなり凄まじい絵が載ってて、読まなかったのに未だに忘れられなくて・・・。

でもきちんとした情報を得たい気持ちはあるので、NHKで特集をやっていたりすると観るんですが、確かにこの絵柄内容なら、はだしのゲンみたいにはならなさそう・・・。
  1. 2009/09/28(月) 07:01:41 |
  2. URL |
  3. kei #-
  4. [ 編集]

>oshirukoさん
うおっ、まさかoshirukoさんも読んでたとは…意外!そして偶然ですねえ~夢に出なかった?大丈夫だった?映画はさ~よくある被爆者が自分で描いた絵(おそらく)がパッパッパと出て来る感じなんだけど、写真じゃなくてもああいうのはああいうので苦手だわよね…無理して見る必要なし!って感じです。

>Nonsenceさん
平気な子は全然平気なんだろうけど、ビタッときちゃう子供にはキツいものがありますよね…例えば『登場人物が亡くなったシーンをよりどぎついものにするために、それまでのシーンでみっちり登場人物に感情移入させる』というテクニックを使ったら、それはホラー映画と変わらなくなっちゃうと思うんだよね。だからホント、「やり過ぎじゃね?」っていう戦争映画いっぱいあった気がする。

>keiさん
はだしのゲンは敏感な子供にとっては『呪の書』だよね。確かに戦争の恐ろしさは伝わったかもしれないけど、怖い気持ち悪いで止まっちゃって戦争に対して立体的に考える事ができない大人をいっぱい作ってしまったような気もする。
  1. 2009/09/28(月) 16:56:06 |
  2. URL |
  3. 禿生@管理人 #3un.pJ2M
  4. [ 編集]

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