禿生海峡冬景色

山形在住【食いしん坊中年男子】の平穏な日常に突如襲いかかる妻や愛猫の嘔吐!そしてその内容物について…

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やまがたのようかい

 もう十年近く昔の話になるが、山形に移住してくる前夜…東京で性に合わない責任ある仕事に就いてしまい疲れ果ててたボクは、たまの連休になると、その当時はまだ友人関係だった妻の住む山形へと遊びに通って来ていた。
 ほっとけばいくらでも湧いてくる仕事をどうにか片付け、新幹線に乗り込んだ瞬間の何ともいえない開放感は堪らない悦びであり、ガランとした車内で缶ビールのプルタブを開けると思わず顔がニヤけた。
 二十三時過ぎに山形駅へ到着し、桜田にあったその頃はまだ単なるの飲み友達だった妻のアパートへと歩き出す…東京よりちょっとひんやりした空気を吸い込み、線路沿いの道を行きながら「こっちは暗いんだな」と思った。街灯の数が少ないのか、街灯の明るさ自体がちがうのか、細い路地の先にある闇の濃さに心奪われるものがあった。
「昔はもっと世の中に妖怪がたくさんいたんですけどね…」著名な作家がそんな風に話してるのを聞いたことがある。確かにそうかもしれない。ほんの三、四十年前は日本中どこでもこんなに街灯は無く、夜になればそこかしこに深い闇があった…闇を照らす月明り、月明りが作り出す影…そういったものが、妖怪を含めた魑魅魍魎をより身近なものとして人のそばに存在させていたのだと思う。
 自分の幼い頃を考えてみても、障子に反射した薄明りが天井の木目に無気味な陰影を作り出し、よくそこに人の顔を見つけ震えたものだ。今は真っ白なクロス貼りの天井に眩しいばかりの照明器具…これでは、魑魅魍魎の出番などあるはずがない。
 思った通り、山形で暮らしはじめてからは妖怪の類いによくお目にかかるようになった。東京では深夜の暗がりというと、アベックや不良少年の溜り場になるのが関の山だが、人口密度のおかげかこっちではまだそんな中途半端な情念に荒らされてはおらず、コンビニ帰りに通りがかった神社裏手で大木が作り出す漆黒の闇が蠢いたりすると、子供の頃からのオカルトファンであるボクはゾクッとしながらも何ともいえないトキメキを覚えてしまったりしていた。

 妖怪はもちろんのこと、UFOや幽霊に関してもボクはある同じ考えを持っている。
『見る側のチカラ』と『見られる側のチカラ』の作用についてである。
『見る側のチカラ』とは、寝室の天井に人の顔を見つけだしたり、草木のざわめきの中から人のすすり泣く声を聞き出したりする、いわゆる【錯覚】とか【幻聴】を捕らえるチカラ。
『見られる側のチカラ』とは、その場所や空間に残ったエネルギー…
 例えば、交通事故をおこした車が、ぶつかったガードレールに大きな傷を残すように、運転していた人が事故を起こした瞬間に発した「ギャッ!」という断末魔の叫びだけが、その空間に小さな歪みとして… 
 心に深い傷を負った人が自室にて命を断とうとしたその瞬間の悲しい、苦しい、辛く恨めしいその強い感情だけがその場に染みつき、時間がたった後もフトしたタイミングで『見る側のチカラ』とうまく噛み合い、そこに何か科学では説明つかないような《モノの怪》を見せるのではなかろうか?

 花小路のはずれにある行きつけの居酒屋で、ボクはこんな持論を熱く語っていた。話し相手は、今日はじめてこの店のカウンターで隣合わせた吉村さんという男性。一時期都内で仕事をしていて、三年前に生まれ故郷の山形に帰ってきたという吉村さんは、ボクより五つ年上の四十四歳だというが、肌ツヤのせいか随分若く見えた。
 お互いゆかりのある新小岩近辺の話で盛り上がり意気投合したのだが、山形に移住して来たばかりの時の事を語っている時に思いつきで聞いた「吉村さんは山形で妖怪に会った事ありますか?」という質問に、キラリと目を輝かせたのを見逃さず(いま思うと、キラリというよりドキリだったのかもしれない)酔いに任せて妄言を投げかけてしまったのだ。
「科学的根拠が明白にならないが故に、いわゆるオカルト体験談ていう【錯覚】や【幻聴】だとまとめられちゃってるけど、ホントに『見る側のチカラ』だけなんですかね?別々の人が別々の時間に同じ体験をしたり、同じ感情を抱いたりするケースもあるじゃないですか?ボクは、ああいうのって『見られる側のチカラ』も作用してる気がするんですよね」
 しゃべりきった所で、グラスに残ったぬるいビールをキュッと飲み干す。吉村さんもつられるように焼酎の入ったグラスをかたむけ、小さくなった氷を口の中でカッカと鳴らした。
「あ、すいません…つい熱くなっちゃって」
我にかえって詫びると、吉村さんは顔の前で左手をパタパタさせながら首を横に振った。
「信じてくれるかわかんないけどさ…」
グラスに新しい氷を入れながら吉村さんが小さい声で言った。
「え?」
聞き返したボクの方に顔をむけず、グラスを見据えたまま続ける。
「聞き流してくれていいんだけどさ…禿生ちゃんおもしろい人みたいだから、ちょっと話してもいいかな?」
「ええ、もちろん!」
自分だけ語ってしまった気恥ずかしさがあったので、吉村さんもノッてくれたのかと嬉しくなり身を乗り出したが、そこで語られた話は予想外に重い…スーッと酔いが醒めていくような内容だった。
 要約すると、吉村さんのお姉さんが実家で亡くなったのが五年前、死後まもなく誰もいないはずのお姉さんの部屋から物音が聞こえたりと不思議な現象が続き、ついにはお母さんが姿を見るようにまでなってしまったという…そんな現象が頻繁に起こりノイローゼ気味になってしまったお母さんの事があって、吉村さんは山形に帰ってきたというのだ。
「信じなくてもいいからさ」という言葉を何度もはさみながら、吉村さんは一気に語った。
「俺が実家で暮らすようになったら、姉ちゃんのこと見えなくなったのか母親もずいぶん元気になってさ…てっきり、俺に山形へ帰って来て欲しい口実で言ってた母親の嘘だと思ってたんだけどさ…」
「なるほど」
「去年の暮れあたりから見えるようになっちゃったんだ…」
「え?」
「最初は、階段の下とか暗がりで…今はもう昼間でも出てきてさ…」
「お姉さん…ですか?」
吉村さんがうつむいたままコクリとうなずく。
「窓開けてるとカーテンが、こう…ヒラヒラってなるでしょ?あの間にチラチラ見えるんだよ」
「はあ…チラチラですか」
 火のついたタバコを吸わずに指ではさんだままうつむいてる姿を横目で見ながら(泣いてるのかな?)と一瞬思ったが、吉村さんはそんな視線を感じたのかゆっくり顔を上げ、タバコを吸い込むと「ハァ~ア~」なんて変な抑揚をつけながら煙を吐き出した。
「でもさ、さっきの禿生ちゃんの話し聞いてたら“そっかなあ”って思ってさ…」
「ボクの話し…ですか?」
「そう、俺も母親も姉ちゃんが何か言いたいことや、やり残した事があって出てくるのかと思ってたんだけどさ…もしくは、俺らに怨みがあるとかね…」
「まさか!」
「や、マジでそう思ったこともあったんだけど、結局何か聞いても答えてくれるわけじゃないから、わかんなくなっちゃって」
「そうですか…」
「でも、禿生ちゃんの言うように、俺らに見えてる姉ちゃんは別に意志を持ってるわけじゃなくて、死んじゃう前の…何ていうか…気持ちのカケラみたいのが傷のように残っていて」
「実家のアチコチでビデオを再生するように、ただ姿だけが見えている!」
「そうかもしれない…最近になって俺に見えるようになったのも、やっと実家での生活に馴れてきて『見る側のチカラ』がついたって事なら説明がつく」
「そ、そうですよ!」

 そっから先は、語った!とにかく語った!醒めかけた酔いを戻すように焼酎のロックを(吉村さんのボトルだったけど)ゴンゴン飲みながら「きっとそれにちがいない!」「怨みつらみがあって出てきてるわけじゃないはずですよ!」ということを、とにかく理屈屁理屈並べ立てて説得した。

 時計が午前二時を回り、ボトルが空になったのをきっかけにどちらともなく「そろそろ帰りますか」という言葉が出た。最後にがっちり握手をして、徒歩で帰る吉村さんが先に店を出た。
 マスターに呼んでもらったタクシーを待ってたボクは、タバコに火をつけ小さくため息をつく
「俺は信じないぞ」
 え?と顔を上げると、マスターがグラス片手にこっちを睨んでる。
「幽霊が出るなんて、俺は信じないぞ」
「でも、幽霊といっても怨みつらみを持ってるわけじゃ…」
「吉村の姉さんてな、自殺だったんだぞ」
「!」思わずキュッと胸が詰まる。
「あいつん家で何があったかは知らんけど、自殺だなんてよっぽどの事がなきゃしないはず…怨みつらみが、全くなかったってこた無いだろ」
「…てっきり病気か何かで亡くなったのかと」
「とにかく幽霊なんて、俺は信じねえ…お前さんが変な話しするから、アイツが悪ノリしちまったのさ」
「でも…」
「ホントだったら、悲しすぎる…だろ?」
「…たしかに」

 結局、呼んでもらったタクシーにマスターも乗り、小姓町のスナックで朝まで歌って呑み直した。あの日「また一緒に飲みましょう」と交換した吉村さんのアドレスからメールは来ないし、ボクも出してない。
 いつかまた、居酒屋のカウンターで偶然並び、何事もなかったかのように新小岩の話で盛り上がれたらな…と思っている。

 
関連記事
  1. 2008/12/10(水) 12:12:12|
  2. 日記
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:3

コメント

信じなくていいんだけど

壁|・ノω・)アタシは 『残像』を よく見ます。

禿生さんのいうように 『残留思念』っていうか そういうの。
そのときのアタシの体調にもよりますけどね。

最近の一番大きな『残像』は 電車でした(・m|壁(笑)

ス~っと 線路を通っていきましたよ(本物ではない)
「おお!(・□・)オォォォォォ」っとびっくりした気持ちを 胸に押し込め
また 何事もないように歩きました(笑)

こうやって 時々
生き物も そうでないものも
そこにまるで あるかのように見えることを 最近まで語りませんでした。
でも 縁で同じような感覚を持っている人と出会い ちょっとホッとしたんですよ( ̄ω ̄*)ニヤ

アタシが見たいと願ったのか 向こうの念が留まっていたのか
そういうのは わからずじまいですけど

いろんなことがあっても いいと思っています。
化学ではない 何かが(Φω|壁
  1. 2008/12/12(金) 18:52:06 |
  2. URL |
  3. AmyBee #A1vz8dvw
  4. [ 編集]

私もオカルト好きです。

昔住んでた家の、私と妹が寝る部屋には「いいゆうれいさん」がいました。


実際に姿が見えるわけではないけど、私も妹もいるって思ってて(感じてて)、電気をつけたまま寝てしまったりしたときに消してくれたり(母は「それはおかあさんだ」って言い張るけど)、コンポのボリュームが急に上がって「やめてよね」って言ったら治まったり、まぁそんなたわいもないものでした。


で、大きくなって私が家を出て、母は父と離婚をしまだ高校生だった妹を連れて家を出て、その家には性格最悪のDVマザコン父と馬鹿息子が可愛いばっかのいじわる祖母が残ったのでした。

私達がいなくなった後、私達が眠っていた部屋で父は寝起きをするようになったそうです。

そしたら・・・というわけでもないんでしょうが、父は病気だらけになりました。
喘息になり、癌になり、今は慢性白血病だとか。


未だに妹は「あれは絶対”いいゆうれいさん”がやってくれたことだ」と言っています。



信じる、信じないは人それぞれ。
「信じる力」によっても、見えたり感じたりの差があるのかも・・・なーんて思ってしまいました。

遅くなりましたが、おうち、おめでとうございます♪
うらやましくてよだれが出そうです。
  1. 2008/12/12(金) 22:59:28 |
  2. URL |
  3. アカメガネ #-
  4. [ 編集]

忍者の・・・思い出しました!(今更ながら)

明日の明け方、足元で僕の足をまさぐる旧友がいたら嬉しいです・・・
  1. 2008/12/14(日) 20:07:30 |
  2. URL |
  3. babydriver #-
  4. [ 編集]

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